おとなのけんか

上映時間79分。

最初は公園の風景で、表情が見えにくいくらいの距離に子供たちの群れがいて、なんだか揉めてる様子。そこにタイトルや出演者の名前が重ねられて、すいっすいっと手前に寄ってくる。このリズムとスピードが小気味いい。
子供たちの中でひとつの”事件”が起きたと思ったらカメラは室内にうつって、以後たくみに組み立てられた会話、表情、視線、身振りの応酬が続く。
まあ結局のところ、二組の夫婦が部屋の中で口論してるだけなんですけどね。ぐるぐる回ってどこにもたどり着かない実生活でもおなじみの議論。しかし登場人物の間の対立軸はめまぐるしく入れ替わって夫婦対夫婦、男対女などすべての組み合わせがあらわれ、観客はいいように連れまわされる。
最後の場面では、登場人物たちとともに、ずいぶん遠くまで来てしまったなと思わないではいられない。いや…出発点に戻っただけ、ではあるんだけど。
ポランスキーはまな板の上に載せた二組の夫婦を良いリズムで切り刻んで解体し、すべてが明らかになるようにテーブルの上に並べてみせた。観客としては最後の一片までのこさず美味しくいただくしかないのでありました。

しかしなんだ、男性ふたりがくだらないシニシズムにしがみついてるのは身につまされる。ジョン・C・ライリー演ずる一見柔和でリベラルな夫は一旦逆上するとたちまちシニカルで皮肉屋な傍観者の立場に座り込んで動かないし、クリストフ・ヴァルツ演じる弁護士は最初から”俺は世界の残酷さを受け入れてるぜ”って態度だけど玩具を取り上げられただけでやはり座り込んでふてくされて動かなくなる。結局のところ日頃は偉そうな事言ってる男たちも、問題解決のための本当の身構えなんてできてやしないのだ。空疎なリベラルの理屈が空回りするジョディ・フォスターや、女性性をぶん回して泣くだけのケイト・ウィンスレットのほうが、まだ前に進もうとしてるだけマシな気がする。
男ってほんとダメよねー。