ディア・ドクター

DVD化前の再上映(@天神ソラリア2)で見に行った。
感心した。画面の中のポイントの置き方が上手い。的確。ああこのカットはこれを示したかったんだなってのが良く判る。といっていかにも絵解き風に"意図"を押し付けてくるわけではない。画面の中に落ちる光や、小道具、人物の視線、そういうものが見ていていちいち腑に落ちる。要は撮り方がきちんとしている、ということなんだろう。
印象としてはひねりの効いた小品。しかし、よくできてる! ある田舎で、診療所の医者(鶴瓶)が突然失踪する。彼は何故失踪したのか。現在の捜査と医者の過去が交錯して描かれる。
田舎の年寄り相手にしている鶴瓶を見てると、NHKの『家族に乾杯』を思い出したりもする。ただ鶴瓶の演じる人物はテレビ的な人の良さにはおさまらない。これは映画じゃないと描けない人物像だと思う。
ところでNHKの『家族に乾杯』にあらわれる日本の田舎は面白い。ロハス的な意味では無く。ロハス的な意味では無く。大事な事なので二度いいました。
現在の田舎には様々な問題が山積みだ。老人ばかりで人は少ない。漂う閉塞感、倦怠感。でも田舎には豊かさもある。人々は妙にでかい新築の家に住んでたりする。妙にテラついた顔の社長がいて、妙な大家族がいたりする。現代の都会が現代の都会ふうに歪んでいるが、現代の田舎も現代の田舎ふうに歪んでいる。いやまあ歪みというとネガティヴな感じですが、面白い歪みというものがある。つうか歪んでないものなんか普通は面白くないわけで。
2006年の山下敦弘監督の映画『松ヶ根乱射事件』はそんな田舎の歪みをダークコメディとして描いていて秀逸だった。いがらしみきおのマンガ『かむろば村へ』は奇人達の住む小宇宙としての現代の田舎を描き、これも傑作だったと思う(って連載をとびとびに読んだだけで、まだまとめて読み返して無いですが)。最近コミックビームで連載始まった鈴木みその『限界集落温泉』も田舎ネタとして、まだどういう方向に行くかはわからないけど、期待しています。
でまあ『ディア・ドクター』も、そんな現代の田舎を舞台に、1人の男の抱えた嘘と謎を描きだしている。彼が八千草薫に手を振ってふっと向こう側へ去る瞬間に、私はグッと来た。なんでもない事物、普通サイズの人間が、物語的・神話的な世界にふっと移行する瞬間。そういうのに私は弱い。
脚本は過去と現在が錯綜する構成で、こういうのは場合によってはあざとい感じがするもんだけど、この映画に関してはとても上手いと思った。過去と現在が響きあいながらだんだんいろんなものが見えて来る。後で監督が脚本も書いてる事を知って、恐れ入りました。いや、でも、自分が書いた脚本だからこそあれだけ要を得た演出ができるのだろうな。ともかく感心しました。