あの口調

森繁氏死去、でなんとなく思い出したのでメモ。

 意味ありげというのでは、タモリのやる「森繁久彌の物真似」というのが絶品だった。タモリに言わせると、あの人は普通に喋っていても全てそれが有難い人生訓に聞えるという不思議な術を有しているらしい。次の様だ。
「それでね、まあ、わたしが、こう、交差点で立ち止まっているんだねえ。秋風が吹いていてねえ。落葉が転がっていくのを見ている内に、いつの間にか信号が青になる。すると、人々がいっせいに道路を渡りはじめるんだねえ」
 何だ当たり前じゃねーか、などと言ってはいけないタモリがあの口調でしみじみやると、実に味わい深い有難いお話に聞えるのだ。
山下洋輔『ピアニストを二度笑え!』新潮文庫、1982年)

口調だけでも深い。いっそ内容が無い方がより深いものを感じさせる。そういうのっていいなあ。一つの理想ではある。