(無題)

寒い。参った。この部屋はストーブをつけても、ちっとも暖かくならない。



今日は特に主題もなくだらだらと書きます。



ブローティガンの『芝生の復讐』に『1/3 1/3 1/3』という章がある。ある夜、17歳の「わたし」と、製材所の夜警をしている「小説家」と、福祉手当で暮らしているシングルマザーの「彼女」が、トレーラーハウスの中で相談している。一緒に小説を書こうというのだ。
「小説家」がノートに小説を書く。「彼女」がそれを校正し、編集する。「わたし」が原稿をタイプで打つ。「わたし」が仲間に入ったのは、タイプライターを所有していて、それを打つこともできたからだ。
小学校の4年までしか行ってない飲んだくれの夜警のノートには綴り間違いだらけの文章が続いている。それは若い木こりとウェイトレスの恋物語だ。
作品は稚拙だが、貧しい三人は真剣だ。印税は1/3ずつ。これはおおいに見込みのある仕事の始まりなのだ。

わたしたちはといえば、雨のトレーラーのなかに坐りこんで、アメリカ文学の扉を叩いていたのである。
藤本和子訳)



上のは寒い部屋でキーボード叩いてたらふと思い出しただけの話。
でも、こんな風に扉を叩くことができたらと思う。
貧乏人、落伍者、若者らが熱心に扉を叩く。そんなふうに叩ける扉がどこかにあればいいと思う。


ナイーブすぎますか。



貧乏人といえば自分のtwitterのプロフィールは"乞食系メガネ中年"にしてる。先月まで無職だったからだ。しかしまた無職に戻りかねん。なのでプロフィールは変えてません。



こないだ実家にあった児童書をなんとなく引っ張り出して眺めた。学研の少年少女世界文学全集
このシリーズはひと通り家にあって子供の頃何度も読んだ。
『星のひとみ』の挿絵がキレイでうっすらと怖くて、今考えるとあのタッチは昔の片山健っぽかったな、と思って確認したら片山健だった。



『星のひとみ』の入っている巻にはいろんな作家の短編童話が入ってるんだけど、チェーホフの『かき』も入ってた。
モスクワで乞食をしてる父子の物語だ。父が物乞いをしてる間、子供は食堂の窓に貼られた「カキ(牡蠣)」の貼り紙が気になって仕方がない。カキとはどういう食べ物なんだろう、と空想を膨らませる。どうやら海産物であるらしい。最初は美味しいエビのスープのようなものを想像していたが、殻につつまれた身を生で食べるのだと父親に言われて、今度は身の毛もよだつほどグロテスクで危険な生き物を想像して恐怖する。恐怖と嫌悪で頭がいっぱいになりながら、子供は何故かカキへの欲望にとりつかれ、「カキをおくれよ。ぼくに、カキをおくれよ」と道行く人に両手をふりまわし大声で訴え始める。
錯乱した子供を面白がった旦那衆が子供にカキを食わせる。子供にとってそれは悪夢のような体験なのだった。


…童話か、これ。面白いけど。
まあ何の印象にも残らない無害な童話よりいいとは思います。



私は字を読みはじめたのが割と早くて、小学校一年くらいまでに家にあった「ドリトル先生」シリーズをひと通り読んだ。今考えたら読んだと言っても充分に意味がわかるような読み方ではなくて(漢字はルビで幼児でも読めるけど、凝った言い回しをちゃんと理解するのは無理だからね)、ただ文字を読むという遊びを遊んでいたのだと思う。


実家の本棚から古い『ドリトル先生アフリカゆき』を開いてパラパラめくった。
オウムのポリネシア曰く、動物はボディ・ランゲージで(も)会話する。

「ほら、ジップが、先生にお話をしています。」
「どうもわしには、ジップが、耳をかいているようにしか見えないがね。」と、先生はいいました。
「動物は、いつでも、口でばかり話すのではございません。」オウムはまゆをつりあげて、キイキイ声でいいました。「耳でも話します。足でも話します。しっぽでも話しますし、あらゆるものを使って話します。声を出したくない時もございますからね。ほら、ごらんください。いまジップが、かたっぽの小鼻を、ぴくつかせておりますでしょう?」
「あれは、どういう意味だ?」と、先生はききました。
「『雨のやんだの知らないか?』という意味です。」と、ポリネシアは答えました。
井伏鱒二訳)



介護の仕事を始めて三週間経つけど、どうも自分は、他人のボディ・ランゲージを読むのが下手だ。いわゆる非言語コミュニケーションという奴が苦手。
他人に対して注意力を向けることができない。注意力全般が不足してる感じ。だから対人サービスも上手に出来ないし、同僚の方々と協働するのも難しい。
昔から「ぼーっとしている」と怒られることが多かった。目の前で手を振って呼びかけられても気づかないことが多々ある。無視された、と思われることも多いみたい。


最初の仕事を辞めたのも、自分でもよくわからない不注意による見落としや単純ミスがいつまでも直らず、どうしようもなくストレスフルな日々に耐えられなくなったからだ。
あの失調は、きっとうつ状態だったからだろう、と思っていたのだけど。
むしろ注意力や他者の意図を読み取る能力の先天的な不足が先立っていたのかもしれない。
まーここらへんは目下検討中です。