国枝史郎の『神秘昆虫館』『八ヶ嶽の魔神』

青空文庫国枝史郎の『神秘昆虫館』と『八ヶ嶽の魔神』を読んだ。
読んでて楽しい。耽美・エロ・残酷・奇想天外・スペクタクル、読者に受けそうな事はともかく全部やりますという徹底したサービス精神が頼もしい。『八ヶ嶽の魔神』の方は代表作の一つに数えられるだけあって伏線はひととおり回収されるが、『神秘昆虫館』の方は明らかにC級と言うかZ級のつくりで、風呂敷広げるだけ広げっぱなしでそのまんまだ。そもそもたたむ気があったのかどうかすら怪しい。あまりに適当な最終章には呆れつつ爆笑した。打ち切りなのか、作者が途中で飽きたのか。どうもお話の結末ををきれいに組み上げて読者を感心させるなんてことに作者がまったく興味を抱いていないように思える。
全編ハッタリの連続、根も葉もないウソの連続なんだけど、ウソに気合いが入っている。臍下丹田に気合いをこめて命がけでウソついてるって感じ。『八ヶ嶽の魔神』ではそのウソが最後に現代の作者自身まで巻き込んで、うっかり感動してしまいそうになる。『神秘昆虫館』はそのウソの八方破れの破綻ぶりに苦笑&爆笑。
しかしアクション描写や設定には現代の映画や漫画を連想させる部分も多々あって、個々のアイディアは驚くほど古びてない。これが大正時代に書かれたと言うのはスゴイですね。まあ、キャラの性格に深みはなく展開は時にご都合主義もいいところだけど、そこはツッコミを入れながら読むべきでしょう。2chの実況板とかニコニコ動画みたいに大勢でコメント入れながら読めたらいいよなーと思った。
しかし国枝史郎は『神州纐纈城』が三島も絶賛の傑作らしいので、いずれ読みます。

図書カード:神秘昆虫館
図書カード:八ヶ嶽の魔神