『読む人間』大江健三郎

読む人間

読む人間

ジュンク堂での講義録に加筆したもの。上の『夜露死苦現代詩』が低い言葉の世界だとしたらこっちは対照的に言葉のエリートの世界、にも思える。ただ大江氏はこと読むことと書くことに関してはひたすら強靭な狂人で、結果としてエリート的な世界からもどうしようもなくはみ出してしまう。「本を再読する、読み直すことは、全身運動になる」というのは大江氏がジュンク堂のイベント「大江健三郎書店」に寄せたコピーだけど、それは何よりも氏自身にあてはまる言葉。この人は全身の筋肉(骨も)を使って本を読み、読み直し、辞書を使い倒し、引用を書き出し、書いたものを編集した上でまた書き直す。
大江氏のこの種の本を読むと励まされるように感じる。言葉を相手にした具体的な奮闘の感覚があって、しかもそれは決して後ろ向きな意味合いのものではない。長い時間をかけて労働するに値するものが本の中にはあるのだ、ということを証言してくれているような気がします。