直島

昨日の続き。
朝ホテルをチェックアウトするとフェリーで直島へ。乗客がかなり多くてちょっと驚いた。直島でやってる「直島スタンダード2」という企画の最終日だったので客が多かった模様です。
直島にベネッセが安藤忠雄の設計で美術館/ホテルを造ったという話を聞いたときは、「ケッ」と思ったわけです。メセナだかなんだか知らないけど企業が離島のリゾートで現代アートですかい、お金持ちが遊びにいくんでしょうなあイヤミだねえバカヤロー、と。
その後私がとても好きなジェームズ・タレルの作品が直島にあると聞いてすごーく見たくなったけど、でもスノッブ向けアート・テーマパークという最初の印象も拭いがたく、「ケッ、………しかし……いいなあ………ううむ」などと思ってたわけですが。

実際に行ってみたら、素直に面白かったです。あー悔しい。

港の前のレンタサイクル屋で自転車を借りるとまずは地中美術館へ。

安藤忠雄設計のこの美術館ではクロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの三人の作品を見ることができます。
スタッフがみな白い制服を着ていました。

館内に入る前にスタッフのお姉さんから注意があったんだけど、この美術館は建築も作品だから、壁にはなるだけ触らないでほしいと言われましたよ。いや確かにすごいクオリティの建築ではある。しかし宗教みたいだなこうなってくると。

チケットを買って白装束の人に見せて館内に入っていく途中、前を歩いていたお兄さんがくるっとふりむいてモギリの人に向かって「アーユーパナウェーブ?」とつぶやいてました。皆考えることは一緒らしい。

最初に見たのはウォルター・デ・マリアの作品。これは祭壇的空間の中央に巨大な磨きあげられた石の球体が鎮座しているというもので、写真で見たときはまあフツーの彫刻では?と思ってたんだけど、実際に見るとそのオーラはなかなかすごいものがありました。部屋の端々には表面に金箔をはられた木製の柱が神官のように立っていて、全体の雰囲気は神々しいのだけどそれぞれのブツの印象は不思議とやわらかい。そのあとミュージアムショップでこの金色の柱を模した鉛筆売ってたのは笑ったけど。
何か映画の中に入り込んだような体験でした。

次に見たのがジェームズ・タレル。かつて、98年にジェームズ・タレル展を見て心底衝撃を受けました。光を使う、というか人間の知覚の規範そのものを扱うこのアーティストの作品は、本当にすごい。

最初に見えるのはプロジェクターで光の立体を映し出す60年代の作品。それから青い光の空間に入っていく「オープン・フィールド」。同じタイプの作品を98年の展覧会でも見たけど、やはり凄かった。そして白一色の部屋に入って、天井の開口部から空の色を見る「オープン・スカイ」。開口部のエッジの処理のおかげで空が矩形の光そのものに見えます。若干曇り空だったのが残念。これが青空だったら……!ちなみに島の滞在者向けに、夕方から夜にかけての色彩の変化を鑑賞するプログラムもあるそうで、これも見てみたいなあ。

最後に見たのはモネの睡蓮。現代美術についていけない客層もモネなら安心‥てわけでもないでしょうが。でもこうして柔らかい自然光がどこからか降りてくる部屋で『睡蓮』見てると、これも現代美術、環境芸術なんだなーと実感します。おそらくは光の具合によって刻々と表情を変えるであろうパノラマ的大画面。

んで地中美術館を出てレンタサイクルをヒーヒーいいつつ漕ぎまくってベネッセハウスミュージアムへ。ここでとりあえずランチ。
鯛飯御前旨し。テラスで食べてると近くで鳥が気持ちよさそうに滑空しているのが見えました。トリはよいなあ。

ベネッセハウスミュージアムでは現代美術のイイトコいろいろって感じで、ホックニーラウシェンバーグリチャードロング大竹伸朗柳幸典ボロフスキーフランクステライブクラインその他。作品の説明プレートが控えめすぎて誰の作品かわかんなかったりしましたが、邪念なく作品を見れてかえってよかったかもしれない。こうして今思い出してみると大物ぞろいで「金にあかして集めやがってーブールジョアーめー」と悔しくなってきた。でも見てるときは何も考えず楽しかったです。

しかし夕方までには帰らなければいけないのでベネッセハウスを出るとキコキコ自転車こいで本村地区へ向かいます。"直島スタンダード2"の作品は島のあちこちに分散しているのだ。

以下印象に残ったとこで

妹島和世SANAA 『空』
金属製の蓮の葉のようなものが空に向かってゆらゆら。

杉本博司 『Appropriate Proportion』
ガラスの階段が設置された神社。地下の空間に入るのに狭い通路を通らなければならない。ちょっと閉所恐怖症になりそうになった。

上原三千代 「八幡さんへの抜け道」ほか
神社内に猫の像。このかっぷくのいい猫が作品です。ねこー。しかし外人さん結構見にきてたけど、この神社+猫の感覚わかるのかなー。

ジェームズ・タレル『南寺』
またしてもタレル。完全な暗闇の中に案内されて、自分が目を閉じているのか開いているのかも分からないまま5分ほど座って待っていると、やがて前の方に灰色のスクリーンがおぼろげに見えてきます。わらわらと動きだした人々のシルエットも見えてきます。
タレルのこの種の作品を見る(というか経験する)と思うのは、死ぬ時はこういうものを見るのではないか、ということです。いや別にスピリチュアリズムとかではなく…人間の知覚のもっとも基本的なフレームに触れているような気がする。
いやほんとうにタレルは凄い。

宮島達男『角屋』
室内の池の中でそれぞれに異なる速度でカウントし続けるデジタルカウンター。水面の波で揺れるデジタル数字が美しい。写真はボケてますが。

古い家の土間に面してつけられた、液晶によるスリガラス風の窓。数字は刻々と変化し続けます。デジタル数字という現代の速度と、スリガラス/障子風の古いデザインの衝突が面白い。


大竹伸朗『舌上夢/ボッコン覗』
古い歯医者さんの建物を好き勝手に改造。おおおこれはまさに、私が見たかった基地外の家です。なぜか室内に自由の女神像が立ってたりする。外部にも内部にも溢れる妄想電波。ああ基地外はいいなあ。





三宅信太郎『魚島潮坂蛸峠』
元床屋さんの建物の中で、蛸にまつわる妄想ストーリーを展開。タコまみれ。

奥の部屋で文庫とか読んでる巨大タコ。

その後車で一路福岡へ。自分の部屋に帰り着いたのは夜中の二時すぎでした。
いや充実してた。疲れたけど。しかし写真をもっとこまめにとっておけば良かったと後悔。