グラックの卵

グラックの卵 (未来の文学)

グラックの卵 (未来の文学)

浅倉久志編訳の短編集。

ネルソン・ボンド「見よ、かの巨鳥を!」
懐かしい感じのバカSF。アイディアはバカですが文体はあくまでシリアスな破滅SF調。
ヘンリー・カットナー「ギャラハー・プラス」
あーこのシリーズの第一作SFMで読んだことあるな。藤子F不二雄が描きそうなスマートなドタバタ。
シオドア・コグスウェル「スーパーマンはつらい」
タイトルの印象と違って、テーマはわりとマジでした。
ウィルアム・テン「モーニエル・マサウェイの発見」
これまた懐かしい感じのタイムトラベルねた。当時の芸術家もどきへの痛烈な皮肉。
ウィル・スタントン「ガムドロップ・キング」
かわいらしいけど読後に奇妙な味が残る寓話。
ロン・グーラート「ただいま追跡中」
普通のスラップスティックですが、省略しすぎでちょっとニューウェーヴ短編みたいになっとる。
ジョン・スラデック「マスタースンと社員たち」
事務員の一団の行動が素晴らしく非人間的なタッチで描かれる。この非人情ぶりがスラデック好き(私だ)にはたまらん。この作品は作者いわくジョセフ・ヘラーの影響を受けているそうですが、結局のところスラデック的としか言い様がない読後感。
ジョン・ノヴォトニイ「バーボン湖」
ものすごく罪がない、かわいらしい小品。いいねえ。
ハーヴェイ・ジェイコブズ「グラックの卵」
68年のF&SFに載ったそうですが、普通にマジック・リアリスム系の文学だった。奇妙な卵を孵すために奮闘する青年の物語。それがそのまま死と再生の物語になっている。楽しくて感動的。

50年代SFからニューウェーヴマジックリアリズムまでを一巡りする、奇想小説のバスツアーのような短編集でした。全体に粋つうか、スマートな感じの作品たちです。