若冲と江戸絵画展 @九州国立博物館

展示の最終日にあわてて見にいった。
よく晴れてたけど風がやたら冷たい日でした。

展示は素晴らしく良かった。良かったんだけど、見ながらいろいろ考えてるうちに頭が痛くなってしまった。まあ思い返すと大したことは考えてないんだけど…つーか何考えたのかよく覚えてませんが。おまけにお腹が空いて会場から出る頃はふらふらになってしまった。
見終わった後、冷たい風が吹く会場の外によろよろと出るとベンチにへたりこみ、バッグの中に入っていた月餅を出して食べたのだった。

今度の展覧会は全部カリフォルニアのプライスさんの持ち物だ。だから会場に入って最初は、プライスさんの気持ちで見ることを試みた。つまり自分のコレクション品を見るコレクター目線で絵を見るわけです。
んーみなさん、人が多くて大変でしょうがまあどうぞゆっくり私の絵を見てって下さい…という鷹揚な気持ちで周囲を見渡しつつ、ああこの絵を買うときはちょっと悩んだんだよなーとかそうそうこの絵を見つけた頃にコレクションの方向性が決まったんだよねーとか、プライスさんの内心を適当に捏造しながら見て回った。

コレクションの全体像は知らないからまあ適当に言ってるだけですが、ここに展示されている作品について言えば明らかに"奇"への傾斜があるように見える。奇想、エキセントリック。一歩間違えるとゲテモノ、キッチュになってしまうような作品。そういうもののなかから良い品を見極めて買っていくのがコレクターの眼力ってやつですが、いつもいつもホームランってわけにもいかないだろうし、空振り、スカも結構あったんじゃないかと邪推する。そのうちだんだん選球眼のようなものができて、こっちからどんどん打ちにいくことができるようになる…んではないだろうか。
まあ絵画のコレクションなんて別世界の話だから、私にとっては全くもってファンタジーなわけですが。

しかし、絵を見てるうちにだんだん内心でプライスさんのマネをする余裕が無くなってきた。もう、画面からこっちに飛んでくる球がすごいわけです。豪速球なのか大暴投なのかもよくわからん。
観客はみんな絵の前でうわっとかすげーとつぶやきながら見ている。観客がこんなに素直に驚いている絵画展も珍しいと思った。自分もひゃーとかうわーとか言いながら見るうちに、すっかり他の観客と同化してしまった。こうなるともうプライスさんの気持ちには戻れない。平民だ、平民。

(…こんなのは全部キッチュだって否定する見方もあるんだろうなあ)(つうか昔はそうだったのでは)(実際、美術史の中でどういう位置づけになるんだろう。不案内だからわからん)(あ、あの牡丹の絵はちょっとアール・ヌーヴォーみたい。ってか逆か。向こうがこっちの影響受けてんだっけか)(日本画って瞬間の美、みたいなのを拾い上げるセンスがあるよな。写真以前の写真的感覚)(この鶴の群像は昔のヴォーグの写真みたい。脚がファッションモデルのそれだ)(あの虎の目…しかしこの異様さに向かってひたすら進むってのはどういう国民性なんだろう)(この飛んでくる鶴の群れのパースペクティブ大友克洋のマンガみたいだ。屏風は"見開き"だな)(大友と言えば、『童夢』で背景の団地に豆のような布団が干してあるのが描かれているのに感動したことがあったけど、ああいうのはこの江戸絵画の細部を見る面白さと通じるところがあるかもなあ)(でかい黒牛にわざわざ小さな白犬をよりそわせてかわいらしさを強調するなんて、日本のかわいさ・ファンシー志向はほんとかわらんね)(曽我蕭白…マジでアウトサイダーアートっぽいな。電波系絵画)(まったく呆れるほど多様な表現、江戸絵画のこの豊かさは素晴らしい、しかしこれら全てをどう受け止めればいいのやら。筋の通った歴史、系譜のようなものはあるのかね)

でまあ呼び物の鳥獣花木図屏風(象や獅子を含む異国の動物たちがタイル状の描き込みで表現された屏風)を見たわけですがですが、えー、まんまと感動してしまいました。なんつか、なんであんな様式で描こうと思ったのか理由はさっぱりわかりませんが、すげぇ美しい、というか面白い、気持ち良い。描いてる若冲の脳でほとばしったであろうドーパミンが目玉から流れ込んでくる。天国的。くそ、こういうのいいなぁあああ。いい気になるなよ伊藤若冲

しかし、あー、どう受け止めればいいのか今でもさっぱりわからない。プライスさんが集めて私達に見せてくれたあれらの絵は、一体なんなのだ。美しかったりかっこよかったり、ある瞬間が見事に切取られていたりするけど、あれは美術なのかなんなのか、あれらの作品は私達の今に連なる歴史の一部なのかそれとも孤立した異端の群れなのか、会場を出るとカタログやら絵はがきやら若冲サンの絵をデザイン化した各種おみやげなども売っていて、そのハマリっぷりにあああああああやっぱりミヤゲモノだったのかと思い、しかし鳥獣花木図屏風みたいな脳内楽園を封じ込めたミヤゲモノなんてありえないよなと思い直し……………………なんだかもう全然判らなくなって、会場の外に出ると、ベンチにへたり込んでバッグから月餅を取り出し、食べた。
天気が良くて風の冷たい日だった。というのはもう書きましたか。書きましたね。