『硫黄島からの手紙』

きつかった。

観る前に筒井康隆の『ヘル』なんていう悪夢小説を読んでたのもマズかった。
しかしまあ硫黄島はほんとに悪夢のような戦場だ。それをよりによってイーストウッドがやるわけで。何もあんたがやらなくても、と少し思う。

父親たちの星条旗』では姿の見えない悪魔のようだった日本兵たちの、人間としての姿が描かれる。この映画では逆に米兵たちが悪魔みたいだ。
負傷した米兵と心通わすシーンもあったりするのだが、それもなんだか、悪夢の中の中休みって感じで妙に現実感がない。

しかし、戦場は地獄だねえ。ほんと地獄だ。

直接的な死体の描写こそ少ないものの、精神的には『父親たちの星条旗』よりはるかに残酷でつらい。
父親たちの星条旗』では手りゅう弾による自決後の死体がちらりと映ってたけど、『硫黄島からの手紙』ではヘルメットに手りゅう弾をぶつけて胸に押し付ける瞬間が描かれる。その瞬間の兵士の目を観客は見ることになる。爆発の瞬間カメラは横にぶれて死体は明確には描かれないけれど、どっちが見ててきついかといえばそりゃ『硫黄島』の方なわけで。

そんな場面の連続ですよ。

しかし、イーストウッドらしさは弱い映画だった気がする。いや、容赦のなさはいかにも彼の映画なんだけど。でも回想シーンなんかはちょっと安易に流れたような。最後の、地下陣地を出てからは良かったけれど。
細かいとこだけど、二宮和也加瀬亮が洞窟で話し合うシーン、カットの切り返しがうるさかった。そういうのもなんだか珍しい。
やはり日本人の顔を撮るのは日本人の方が…と思わなくてもない。ただ、これをとれる日本人監督がいるかというといない、のかな。

愚劣な状況のなかで人々が失われていく。こうやって一生懸命記録を掘り返して、死んだ人を大勢の生きた人々が演じて映画にしても、戦争の圧倒的などうしようもなさを前にすると無力だ。映画を見て映画の無力を感じてしまうのも皮肉ではありますが。

『父親たちの〜』とあわせて老若男女ミギヒダリ問わず観てほしい映画だと思います。
しかし、キツいよ。楽じゃないよ。