P.G.ウッドハウス『比類なきジーヴス』

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

はじめてジーヴス物を読んだのは中学生の頃。実家に何故か集英社世界文学全集が一冊だけあって、これがユーモア小説集の巻だったんだけど、ウッドハウスジーヴス物が数篇収録されてたのだ。この巻にはケストナーの『点子ちゃんとアントン』やイリフ&ペトロフの『十二の椅子』が収録されてて、今考えるといい内容だった。『点子ちゃんとアントン』は児童文学の名作でいつでも読めるけど、『十二の椅子』の方はこれがなきゃ読んでなかっただろう。ソヴィエトの風刺文学の名作です。後で知ったけど。ソヴィエトにもこんな純粋なエンタメがあったんだねという作品。
で、その時初めて読んだジーヴス物は大変面白かったんだけど、ウッドハウスも日本ではなかなか翻訳されない作家で、その後なかなか出会えなかった。ところが去年急にウッドハウスが新刊で何冊も訳された。文藝春秋ウッドハウス選集と国書刊行会ウッドハウス・コレクション。ありがたいこってす。
とありがたがりつつも金がなくて読んでなかったんですが、先日図書館で出会ったので借りました。読みました。バーティージーヴスとの久々の再会。
そうそう、これだこれだ。なんでも知ってる執事のジーヴス。彼は二日酔いに効く特別の飲み物のレシピも知っている。これには"ウースターソースか何か"が混ぜてあって酔いざめの頭を一発でしゃっきりさせる。初めて読んだときは、ウースターソースが入ってるなんてどんな飲み物なのかねえと思ったもんです。
ジーヴスものは基本的にワンパターンだ。物語の語り手である貴族のおぼっちゃま・バーティーが陥った窮地を、執事ジーヴスが見事な頭脳の回転で救ってみせる。主人より雇人のほうがずーっと賢くて、状況を見通していて、支配さえしている、という構図。これはまあ風刺的と言えば風刺的なんだけど、この関係を登場人物たちが愛してるってのが肝心なとこだ。いや、愛とはちょっと違うかな?ともかくこのシリーズの笑いは皮肉が大いに混じってるけど、最後はみんな英国的な居心地良さの感覚に落ち着く。トラブルにまきこまれて、いやはやひどい目にあったけど、一晩眠って目覚めれば、目覚めの紅茶が運ばれてくる。
銀河ヒッチハイク・ガイド』の作者ダグラス・アダムスウッドハウスに最大の影響を受けたという。そういえば『銀河ヒッチハイク・ガイド』の主人公のイギリス人アーサーは、宇宙を引き回されながらも一杯の紅茶をひたすら恋しがっていた。イギリス人はイギリスが好きなのね。あんまりハッピーじゃないとしても。