引っ越し、もぬけの殻

8年間住んでいたワンルームマンションから荷物をすべて運び出した。あとは燃えるゴミがひと袋と、掃除に使った雑巾と、洗剤が残ってるだけ。
部屋はすっからかん。もぬけの殻。そういえば「もぬけの殻」って語源はなんだろうね? ググってみると

・蛻けの殻(もぬけのから) 1.蝉(せみ)や蛇の抜け殻。2.人が抜け出た後の寝床や住居などの喩え。 例:「訪ねたときには蛻けの殻だった」 3.魂が抜け去った身体。死骸(しがい)のこと。 ★「蛻ける(もぬける)」は、「も」は「身」の意で、「身抜ける」かという<国語大辞典(小)> ★「裳(モ)抜け」の意<新明解国語辞典5(三)>及び<学研国語大辞典>
http://www.geocities.jp/tomomi965/ko-jien07/ma14.html

ということらしかった。「蛻」なんて字、知らんわ。睨、とか、蝮、とかいう字と見間違えそうな字。虫へんに兌、でいいのかな。兌換券の兌か。中身が交換されるとか、そういう意味があるんだろうか…と思ってさらに「兌」をググる

悦や脱の原字で、人の衣を開いて脱がすさまを示す。抜きとるの意を含む。
固まった物をときほぐしてバラバラに分散させ、あるいはときほぐして中の物を抜き出す。
(1)あな。開いたあな。抜け道。
「塞其兌、閉其門=其の兌を塞ぎ、其の門を閉づ」〔老子・五二〕
(2)抜け出る。抜きとる。「兌換(ダカン)」
(3)心中のわだかまりが抜けとれる。
▽悦(エツ)・(ヨロコブ)に当てた用法。「安兌(アンダ)」
(4)周易八卦(ハッカ)の一つ。また、六十四卦の一つ。(兌下兌上(ダカダショウ))の形で、心身を正しく保てば成功することを暗示する。
http://ww81.tiki.ne.jp/~nothing/kanji/jigi/003-001.html

ということだった。ところでこうやって次々にググっていくってのはネットに接続できる環境であれば日常的にやることだけど、これからの小説は心理描写にこういう過程を書きこむなんてこともあるのかね。ググってググってどんどん横滑りしていく思考。その場合の人間の内面ってなんだろう。まあ小説家が考えればいいことですが。
さて私が8年間住んだ部屋はからっぽになった。最後に掃除してて思ったんだけど、生活するということは、脂を出すって事ですね。生活の脂がしっかり壁に、ガラスに、家具にへばりついて膜になっている。それも場所によって濃淡があって、たとえば机が置いてあった場所の向いの壁はぼんやりと黄色いが、あれは私の足が何度もこすりつけられたせいだ。
ここに犬がいれば臭いで私の8年間の暮しがわかるだろうなーと、がらんとした部屋をながめながら考えた。サーモグラフィーがもうそこにはいない人の体温を映像化するみたいに、犬の嗅覚は私のベッド、私の机、私のちゃぶ台があった場所を空間の中に描き出すだろう。
私はそこまでの嗅覚はないのでただ呼吸してぼんやりするだけだ。家具を運び出した後の部屋は生臭いような、湿ったコンクリートのような臭いがした。住んでた時はしなかった臭いだ。じゅうたんの下のコンクリートの床から出てるのかもしれない。それとも、私の発していた生活臭の総和って事なのかもしれない。
やがてこの部屋は壁紙を貼り直され、じゅうたんも新しいものに替えられて、クリーニングされ、次の居住者に明け渡されるだろう。私が8年間発した臭いと脂の膜も、きれいに剥ぎ取られて廃棄される。それがつまり私の蛻けの殻だな。