年末年始

晦日

晦日は実家のこたつで岩波文庫デカルト方法序説』なんて堅いものを読んでました。理由は時にないけど、昔買ったまま読んでなかったのを本棚で見つけたので。薄い本文にけっこうな量の註がついている。今回註はほぼ無視。

方法序説 (岩波文庫)

方法序説 (岩波文庫)

存外に面白かった。まあ数多の人に精緻に読み解かれてきた本なわけで、私なぞが「紅白」横目で見つつ目を通した程度で何かいえる本ではありませんが。
しかし、なんつーか、意外なほど読んでて楽しかったのです。特に第四部までで自分の思考原則を整理したデカルトが、第五部で心臓の構造や生物について語りはじめるところが楽しかった。この章は他の著作の要約らしいのだけど、それにしてもこのデカルトノリノリである。視野に入る限りの世界すべてを理性によって認識し明晰に語りうるのだ、という自信を感じます。
でもってこの章でデカルトは機械/動物と人間の差異は何かという大きな問題に一つの回答を与えてしまう。今から見れば驚くような回答じゃないんだけど、書いてる方からしたらすごい新しいことを書いてるわけで、こりゃ書いてて気持ち良かっただろうなあ。このへん、ある種のSF読んでて感じる気分に近い。世界認識が展開する瞬間の快感。まあ、私はまだちょっと青少年期のSF脳が残ってて、何かに驚くと「これはSFだ!」と思ってしまうわけですが。
まだろくに読めてないと思うので、今度は註も見つつぼちぼち読み返していくかも。

紅白

親兄弟姪甥と一緒に紅白を通してみる。J-POPを聴くとなぜかブックオフを思い出します。2006年最後の3時間ひたすらブックオフを思い出し続けていたという。
DJ OZMAに関しては皆案外冷静。老父だけはJ-POPに耐えかねて先に寝にいってたけど。甥は「あれ裸に見えるけど服きてるよ…着てなかったら大変だよ」といち早く指摘してました。まあ、そんなもんだよね。

んで明けて正月

おめでとうございました。

お年玉

お年玉渡しタイムになって、自分も少ないながら姪と甥に渡す。甥は「お母さん中見てきていい?」と言うと、もらったお年玉をまとめて持ってとたとた2階に消えた。しばらくして「きゃー」「うぉぉー」とひとしきり喜びの声。
甥は小学校4年生なのだけど、屈折とか裏表がなさ過ぎである。彼に思春期はくるのだろうか。想像が付かないですが。
姪の方に、今時の女子はマンガとかどんなの読むのよ、と尋ねたけど、ケロロ軍曹が好きと言うことくらいしかわからなかった。今は、クラスのみんなが読んでるマンガとか、ない感じなんですかね。
姪と甥は全部で4人いるけど、みんな健全に育ってるのであまりマニアックなマンガ読みにはなりそうもない。諸星大二郎作品を語り合う日はこないか…。

おみくじ

両親を車に乗せて神社へ。おみくじは吉。現状維持でできるだけ動かないように、というような内容だったが、それは一番やばいと思った。

グレッグ・イーガン『ひとりっ子』

新年用に買ってたイーガンの短編集『ひとりっ子』を読む。

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

以下ネタバレを含む収録作の感想です。

『行動原理』『真心』……究極のスマートドラッグといえそうな脳内改変ナノマシンをめぐる物語。こういうのはSFというよりもはや現在の物語ですな。しかし、イーガンならいくらでも書けてしまいそうな話ではある。
『決断者』……イーガンの短編は鮮やかなのだけど、たまに良くできた学習マンガを読んでいるような気分になることがある。これなんか典型的で、ミンスキーの”心の社会”モデルを知った時に誰もが考えることがそのまんまドラマ化されている。上手いんだけど"そのまんまの絵解き"なので驚きはあまりありません。もっとも、路上の犯罪が人間の神秘(…の不在?)を垣間見せるっていう筋書きは、なんだかクラシックなオモムキがあります。よく知らないけど、ドイツロマン派とかそのへん。
『ルミナス』……数理世界にひそむ危機というアイディアはぶっ飛んでるけど、ドラマ自体は「世界の危機をすごい科学者のみなさんがなんとかしようとする」話で、パルプSFを彷佛とさせる。懐かしい感じ。
『決断者』にしろ『ルミナス』にしろ、イーガンは超先鋭的なセンスと意外なほど古くさいドラマの感覚を共に持っていて、そこがまあ、個性だなと思います。オーストラリアの作家っぽい、とも思う。
『ふたりの距離』……他者への愛についての皮肉な物語。あまりに身もふたもないアイディアなので映像化したらコントにしか見えないだろーな。オチの付け方が星新一ショートショートのようだ。
『オラクル』……冒頭は何がおこってるのかわけわかんなかったけど、主人公のモデルに思いいたったとたん鼻血が出そうになった。この人物に多少なりとも興味を持っていた人にとっては、この短編のアイディアは実にたまらんものがあります。いやあ、これは書いてて楽しかったんじゃないかなあ。
『ひとりっ子』……原題Singletonなのでデザインパターンの話かと思ったら違った。
『オラクル』と、この『ひとりっ子』で出てくる"量子力学多世界解釈が人間の倫理を危うくする"というトピックについては、正直よーわからんところがあります。いや、いちおう筋としてはわかる(と思う)のだけど、実感が湧かん。もう一つのトピック"人工知能は人間になりうるか"についてはいろいろ思うところがあるんだけどなぁ。世界が分岐するのが切ない(‥この理解が違うのだろうか)っていわれてもなぁ。まあ確かに自由意志を巡る難問の一つだろうけど。

人工知能と人間の連続性については、私にはほぼ自明のことのように思える。しかし、欧米(キリスト教)の思考からは全然自明ではないのだろう。
これが倫理と多世界解釈の関係については逆なんだろうな。その関係が私には見えにくいけど、イーガンにははっきり見えているのだと思う。
そういう"自明であることの裏にある問題"について考えさせてくれるという点で、イーガンのような作家は貴重です。

解説で編者も書いているように、総じてハードSF寄りの短編集でした。個人的には『オラクル』みたいなのをもっと読みたい。
人工知能を巡る近現代史とイーガンの奇想を組み合わせたら山田風太郎の明治ものみたいな連作ができそうな気がするがなー。

しかし『方法序説』の後にこれを読むというのもなかなか、ベタですが乙でした。

雨樋

高いところにのぼって実家の破れた雨樋を修理する。雨樋にも規格というものがありまして、今の雨樋と昔の雨樋じゃサイズが微妙に違うんですなあ。ホームセンターで買ってきた部品とあわなくて、困る。

落語

帰省してた兄の家族では落語が流行ってるらしく、実家にあった圓生のカセットを引っ張り出して聴いていた。『夏の医者』と『三十石』を聴く。『三十石』はキャラクターの演じ分けがすごいねぇ。
なんとなく落語気分が盛り上がったので、志ん生の『なめくじ艦隊』のちくま文庫版を本棚から引っ張り出して読んだりした。何度か読んでますがやはり面白いです。

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)