嫌われ松子の一生

観ました。良かったです。泣きました。まあ、私はよく泣くんですが。

ある日、荒川の川べりに死体となって転がっていた一人の女の物語です。ホームレスのような身なりでぶくぶくと肥え太り、ボロアパートのゴミ部屋でひとり暮らし、周囲の住人からは嫌われていた松子。
一人の女が惨めな生の果てに迎えた、惨めな死。

でも、本当はそうじゃない。
本当はそうじゃなかった。
という映画。

突然上京してきた父親に、会ったこともない叔母が亡くなったからお前部屋を片付けてこい、と命じられる青年を瑛太が演じているのだけど、彼の腑抜けっぷりがなかなかよかったです。ミュージシャンを目指して上京するもたちまち挫折してダメな日々を送るばかりの、ばかものなワカモノ。Tシャツの襟の広がり具合がリアルでした。

腑抜けの甥っ子は、松子の遺品を整理するうちに、彼女の生の一端に触れます。それは決して、惨めでもつまらなくもなかった。

画面の作り方はすごくポップです。ミュージカル調で、色彩も華やか。
ある時ヤクザに追われることになった松子は、アパートの窓からよじり出て斜面を転げ落ちると傷だらけ・泥だらけのまま夜道を走り出します。それでも男の待つ場所に向かって走る松子の足下には花が咲き乱れいつしかCGの小鳥が舞い踊りはじめる。
だいたいそんな感じです。転落に継ぐ転落を重ねる松子の人生は、常に極彩色の夢で飾られています。どこまでも表層的でポップな描写は、映画と言うより絵巻物みたいでもあります。

おセンチといえばオセンチな映画です。でも、切実に必要なセンチメンタリズムってのもある。観ながら、ヴォネガットの小説のことを思い出したりました。
この監督の過剰な映像のスタイルは映画としてはどーなんだろーと思いますが(凄いんだけど、なんだか映画じゃなくなってしまいそうな勢いで)、その裏に見える"強い"センチメンタリズムはなんだか面白い、と思いました。