ほめる批評とけなす技術

映画の感想を主に書かれてる(たぶん有名な)blogに空中キャンプ(id:zoot32)さんがあって、ちょっと今は4月までお休み中みたいなんで閲覧できませんが、ここはいいです。とてもすき。
何がすきかというと、基本的に映画をほめるんですね。それも、いい先生が生徒のいいところを見つけてあげるような優しい視線でほめてあげる。ほめてのばす。いやほめられた相手が、それでのびるかどうかは知りませんけど。

ほめる批評でも、ただほめてるんだったらゴマスリつーか単なる馴れ合いですけども。でも「こんな風に評価できるところがあるぞ」って新しい評価軸を出すようなほめ方は、おおっと思う。読んでトクをした気になる。そういう批評を読むと、批評者に対する評価が高まる。それは、ほめる批評がそのまま「ユニークな評価軸の提示」になってるから、読んだ方も得をした気になります。

こういうスタイルは、たとえば週末に見る映画を選ぶためのレビューには向いてないかもしれません。点数つけて序列化してもらったほうが、判断はしやすいので。
でもまー、最終的には他人の点数ってあんまり意味がないわけです。おみくじくらいの意味しかない。もちろん、おみくじを引く楽しみってのもあるんだけど。
ともかく、ほめて新しい評価軸を出すタイプの批評は、読者もトクだし、批評者の評価という点でも有利なスタイルだな、と思います。

それに対して、けなす方はリスキーです。
最近コミ通というマンガ批評サイトの「失踪日記」(吾妻ひでお)評が「ヒドい」ということで一部で話題になりました。
問題の「失踪日記」評はこちら
http://comitsu.blog47.fc2.com/blog-entry-37.html
批判や反論についてはコメント欄やトラックバック先を参照。

実際まあ、上の批評は浅い。もうギリギリに浅い。ただ、特にマンガファンでもない普通の人だとこんなもんかもな、と思う内容ではあります。そういう意味では素直な感想文だと思いました。
実際、マンガ批評をするような人がみんなマンガを読み込めるかというと、そうでもない。つーかプロの評論家でも読める分野と読めない分野というのはあるわけで、そこを言い訳したり隠したりしながらみなさんレビュー書いてるんだと思いますが。
読めないマンガにたいしては平板な批評になりがちですよね。だから題材が悪いってことはある。

んで上のレビュアーさんの場合、意識的に辛口のスタンスでレビューを書いているらしいんですが、「辛口」って足下を見られやすいのだな、と思いました。
ちょうどほめる批評の逆で、けなす批評は特に新しい評価軸の提示がなくてもできてしまう。だから、読んでも新しく得るものが何もない、トクをした感じがしない場合が往々にしてあります。
つーわけで、けなす批評に対しては読者の目も厳しくなります。上のレビューに対する反論・批評も基本的に、「失踪日記」に否定的であることより、評価軸の貧しさを糺すものが多いです。

辛口の批評芸つーとたとえばナンシー関ですが、ナンシー関が面白かったのはけなしながらそこに際立った芸と新しい評価軸を提示してくれたからです。西原理恵子もそう。だから彼女らは面白いけど、エピゴーネンの人たちはあんまり面白くなかったりする。
辛口の批評に求められるのは多分に評価の公正さではなくて、けなす技術です。逆にいうとその種の芸を見せるには辛口批評はすごく有効。すっぱり斬った切り口が鮮やかなら、見てる人は喝采します。そういう鮮やかさは、ほめる批評では出にくいかもしれない。

つーわけで一般に芸人志向の人が辛口に語りたがるのはわかる。わかるんだけど、しかし芸を見せるというのは常にリスキーな行為でもあるなと。