血統の保護

こないだ知ったんだけど、女系天皇を認めることへの反対意見の中に、
「女系だと、神武天皇以来受け継がれてきたY染色体が失われる」
という主張があるそうで。
参考:http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1118274305
それを見て反射的に連想したある小説の一節。

あの人は、およそ二千年ちかくもひとつの生物学的な血のつながりを保っている、エコロジカルにまったくめずらしい貴重な種じゃないか? それを破滅させるということは、鯨を一種滅びさせるとおなじほどにも恐ろしいことじゃないか? おれはいまきみたちのもっている憲法をひきあいにだしても、あの人の「象徴」としての保護は十分じゃないと思うね。国会の開会式に出たり、アフリカからの使節に会ったりするのをすべて止めて、どこか山の奥の最良の環境に、トキのような滅びかかった鳥ともども隔離され、保護されるべきじゃないだろうか? そして新年ごとに日本人のみならず人類全体へ「現人神」の短いメッセージをおくってこさせることにするんだ! きみはこのエコロジカルな「象徴」のための憲法改正運動に立ちあがる気持ちはないだろうか?

大江健三郎70年代の中編『月の男』から。語ってるのはアポロ計画が恐くて日本に逃げてきたアメリカ人の元・宇宙飛行士候補。日本人の作家に語りかけてます。
つくる会」の人が大江の三十年前の小説の登場人物のような事をいってる、というのは(偶然にせよ)ちょっと面白いなと。

『月の男』は、対になる作品『みずから我が涙をぬぐいたまう日』と合わせて濃いのが好きな人にはお勧めです。登場人物キチガイばっかり。
みずから我が涙をぬぐいたまう日 (講談社文庫)