10月に観た映画メモ

アイアン・スカイ

月からナチがやってくる映画。たのしい。
スターログという昔のSFビジュアル誌のことを思い出した。この映画はなんとなくスターログっぽい気がする。といってスターログをリアルタイムで読んでたわけでもないんだけど。SFというジャンルに輸入モノの玩具の匂いがあったころのあの感じ。
各国の宇宙戦艦のデザインが不必要につくりこんであるところとか、スターログなら絶対それぞれの写真載せて紹介しそう。…と思ったら映画観た後本屋で映画秘宝の某ムックを見ると、アイアン・スカイの各国戦艦の解説があった。受け継がれる何かを勝手に感じました。

そして友よ、静かに死ね

暴力とともに暮らしてきた男たちの物語。仕上がり間近の干し柿という風情の、味のある皺を刻んだ顔がぞろぞろ出てくる。尾張名古屋は城でもつが、ノワール映画は顔でもつという。知らんが。
登場人物たちの立ち居振る舞い、メシ食ったりコーヒー啜ったりする姿に、なんだか実感が感じられてよかったです。

最強のふたり

介護役のドリスがフィリップの前で踊ってみせる場面が感動的なのだけど、なんで感動するかって言うとドリスの健康的な身体が楽しそうに踊ってるからだよなーと思う。
首から下が麻痺したインテリ・白人・大金持ちフィリップの前で貧しく粗野な黒人青年ドリスが楽しげに健康な身体を躍動させて踊る、その踊りがフィリップを笑顔にさせる…というのはひょっとするとーーひょっとしなくてもずいぶんと差別的な図式でないか、と思ったりもする。
でも黒人/白人や富/貧困という属性の対比と別のところで、健康な他人の身体が踊るのをみるのは楽しいし、それが見る人を励ます、というのは普遍的な事実だろう。だから人は踊るのだ。
自分を十全に生きようとしている人間こそが他人を根本のところで励ますことができる。ここにフォーカスをあてているがために、この映画はともすると偽善的・差別的な作品になりかねない設定の危うさを逃れていると思う。

ソチの地下水道

主人公を単純な善人に描いていないのが良い。
…まあ、いまどきこういう映画で主人公を単純な善人にするほうが珍しいだろうけど。それでもこの映画の主人公の「純粋な善人でも悪人でもないが結果として命がけで他人のいのちを守ることを選択した」人物像の描き方は腰が座ってた。彼が善人でも悪人でもないからこそ、その決断の重さが心に響く。
それにしても下水道での生活の閉塞感が半端ない。見てるこっちも息が詰まって具合が悪くなりそうだ。
だから、最後の場面の開放感たるや…!

桐島、部活やめるってよ

とても素晴らしかった。
それにしてもKBCシネマでの桐島の観客は劇中の映画部ぽい人々が私含めて多く、上映中起こる笑いも共感に溢れ、既にしてカルトムービー上映会的な一体感、なのだった。こういうのも最近珍しいですね。

突然だが望月峯太郎バタアシ金魚』最終回のことを思い出した。この最終回はある意味『桐島』を裏返しにしたようなところが少しある。
それを説明するには20年以上前に完結した全6巻のマンガの説明する必要があるので、えー、あれだ。読んで下さいバタ金。
バタアシ金魚』最終回はヒロインのソノコちゃんがゾンビになる悪夢から目覚める朝から始まる。んで彼女は今までの自分はゾンビみたいな生き方してたのかしらと反省するんだけど、思えばあのころ(『バタ金』最終回は1988年)から既に「青春」はゾンビ的な何かになってたなと思う。「青春」が戦う相手はゴジラでもエイリアンでもなく、ゾンビだ。いやゾンビは戦う相手というか、状況のようなものだけど…

11月に観た映画メモ

キック・オーバー

面白かった。これは拾い物。拾えて嬉しい。
最初は舞台設定があまりに荒唐無稽に思えて、ほとんどSFーーというかメル・ギブソンが日活無国籍アクションに出ているような錯覚を覚えたが、あとで調べたらあの無茶な刑務所には一応モデルが実在したのだな。いやはや現実というのは恐ろしい。
メル・ギブソンが一人で組織を崩壊させてしまう様子は『ペイバック』思い出した。あのひとならやりかねんってところはある。
原題は"How I Spent My Summer Vacation"で、実際それが最後に出たような気がするが、"Get the Gringo"がアメリカ公開時のタイトルになってるみたい。前者のほうがこの映画の人を喰ったユーモア感覚をよく伝えていると思う。が、まあアクション映画らしくないタイトルではあるが。
95分。やはりエンターテイメントはこれくらいの長さのほうが傑作になりやすいのではなかろうか。

アウトレイジ ビヨンド

ヤクザの構成員って結局のところ、他人の怒りをひたすら代行させられるだけなのな。その中で、ビートたけしだけが怒りを直取引で相手に届ける。
相手との直取引志向ってのは、映画に限らずたけしの芸風でもあるような気がする。
漫才コンビめいた”おかしな二人組”がそこここに登場する映画でもある。特にビートたけし中野英雄小日向文世松重豊は重要なペアだが、最後で松重豊小日向文世のもとを離れる一瞬が、やけにやるせなく、寂しく感じた。
あんなふうにコンビが別れる場面を、たけしはこれまで何度もみたんじゃないかなあ、と思ってしまったのだ。

黄金を抱いて翔べ

劇中の浅野忠信の子どもがアスペルガーっぽいなあと思ってみてたらちゃんと(?)逆さバイバイをしていたのにちょっと感心。
妻夫木聡が心になにか重いものを抱えてるような表情をずっとしてて、ああこの人は心になにか重いものを抱えてるんだろうなあと思ったら、最後に心に重いものを抱えていたことがわかるという…いや、まあその、そうなんでしょうけども。
丁寧につくってあるとは思うんだけど、キャラクター描写一辺倒で押してくる感じがやや退屈な気もする。

アルゴ

サウスパークのバターズがベン・アフレックへの嫉妬でおかしくなるほど評価してた、という理由で観に行った。
実際サスペンスとしてはとても良かった。バターズが嫉妬してたのにも納得。
でもやっぱり「アメリカ人いい気なもんだ」って気がしてしまう。や、別にアメリカ万歳って映画でもないんですけどね……あのメイドさんの顛末がやるせない。