入眠時妄想

ぐったりと疲れた身体をベッドに横たえているとこれ以上の快楽はないと思う。肩や腰や腕の重さをマットレスの上に預けるうちに私の中の言葉だけが頭の上に浮き上がってくるような感覚が訪れる。水面に浮かび上がる糸屑のような言葉の下にはチリチリ回転する微細な図形の群れが見える。暗い空間の中に蠢く図形と言葉。今の私の意識の形だと思った。私が頭の中で呟く言葉がぽつぽつと短い糸のように空中に現れては消える。言葉が流れている間は私は目覚めていられるけど、この言葉が消えてしまえば"私"は消えて眠りがやってくるだろう。横たわってなお目覚めている"私"は、要するに全部、言葉でできている、と思い、それも数語からなる短い言葉、と思った。言葉は出てくる端から消えていくので短いものにならざるをえない。それに対して書物と言うのは消えていくべき言葉が全部残っている不自然なものだと思った。書いてある言葉はすべて不自然だ…消えていくはずの過去の"私"が延々と残っている。ラファティの「900人のお婆さん」って短編は先祖が全員生き残っている不死の種族の物語だったけど、あんな感じ。本の中には900人のお婆さんが(ここらへんで眠った)