物語

2ch某所で、若いぷろぐらまーのひとが元雇い主のひととケンカしてる様子を見た。
若者があるソフト屋さんに入社した。入社するまではそこは天才プログラマー率いる凄腕集団だと思ってたのに、入ってみたらどうも様子が違う。あんまり天才でも凄腕でもないみたい。待遇は悪いしスケジュールは無茶だし、仕事も裏業界のヤバげな案件。やがて若者は耐えきれず、やめた。しばらくして、あらためて怒りがこみあげてきた若者は、ネットでかつての職場の内情を暴露しはじめた。元雇い主の人も出てきて応戦するが、話は妙にこじれて‥というような展開。
知らない業界なので、どっちが正しいかとかはよくわからない。

本筋と関係ないところでちょっと面白かったことが一つ。
この若い人が大学で研究として作ってたのが、ノベルゲームのシステムらしい。そのシステムは単にエロゲを作るための便利な環境一式という程度のものじゃなくて、ポイントは物語の自由度の高さとコントロールの精密さにあるみたい。よくわかんないけど、メタ物語的な視点があるような印象をうける。
そういうハイパーなメタ物語システムを作ってた若者が、就職して理想と現実の落差に愕然→爆発、という古典的青春ストーリーを全力で演じている、そこがなんとなく面白い。彼の自意識の持ち方とか、理想や正義への希求の強さとか、社会不適応感バリバリなとことか(世を捨てて山にこもるような事言ってる)、まるで明治の文学青年を見るような…とてもクラシックなものを感じる。

ブンガクってそのうちいくつかの文章生成アルゴリズムに回収されるんじゃねえ?って話を山形浩生が『たかがバロウズ本』で書いてた。それを読んだ時、まあ小説がまるごと自動生成されることはないにしても、おおまかなストーリーラインに沿って表現の揺らぎや各種エフェクトを加えて小説が半自動的に生成される時代はくるかもしれない、とちょっと思った。例えばエフェクターシーケンサーサンプラーで曲を作るみたいに、ソフトウェアの助けを大幅に借りて小説を構築するのだ。
そうなると作家の仕事は技術者っぽくなるかも。このモジュールとこのモジュールを使って、フィルターで処理して…とかそんな感じ。
だとしたらノベルゲームのシステム作りたいという人は、結構未来の文学に近いところにいるのかもしれないと思う。無数の可能世界を包含するメタ物語の編集者としての作家。

だけど、自意識は明治の青年と同じ物語をくりかえす。たぶんここ150年くらい繰り返された物語の繰り返しだ。いや彼だけではなく、ぼくたち皆がそうだ。ナゼダカワカラナイケド、ソウイウモノナノダ。

 現在(いま)も、日々生産されている小説は全て十九世紀市民小説である。
 そして詩も十九世紀市民詩なのである。
 そして批評も十九世紀市民批評なのである。

(『ジョン・レノン対火星人高橋源一郎

<何故、二千年以上も十九世紀がつづいているのか、何故二十世紀や二十一世紀が存在しなかったのか、これは宇宙の大いなる謎なのだ。たぶん……>二人の精神感応波交信(サイキック・ウェイブ・コミュニケーション)はガーガーピーピーの雑音(ホワイトノイズ)で少しの間妨げられた。
<今、なんて言ったの、おじいちゃん?>
<たぶん、神様のきまぐれのせいだって言ったのさ。さあ、夜ふかししないで寝るんだよ、寝る前には必ずおしっこしなさい、いいね?>

(同上)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)