エリジウム

フィリップ・K・ディックというSF作家がいまして。今更説明するまでもなく、いくつもの作品がハリウッド映画の原作になってるーーでも生前は不遇だったーー有名な作家ですけども。
彼のSFの特徴として、誰だったか、評論家が書いてたんだけど、彼は"CMを流すハエ型ロボット"というようなものを作品に登場させる、と。このハエ型ロボットは近未来の表現なんじゃなくて、どこに行ってもCMにつきまとわれる現在の表現になってる。ディックのSFは予測された近未来じゃなくて、SF的ガジェットで再構成された現在を描いてるわけです。
第9地区』と『エリジウム』を観ると、ニール・ブロムカンプ監督も、現在を描くためにSFを使ってるような気がします。その点、ディックと似ています。
エリジウム』は、設定の整合性という点から見るといろいろ穴があるように思えます。百年ちょっと未来の話ではあるけど、あの医療ポッドはちょっとオーバーテクノロジーなんじゃなかろうか。盾のように手に持って使うシールド装置、というのもリアリティない気がする。頭をもぎ取ったら動作停止する戦闘ロボットってのもどうだろう。そもそもあの脆弱過ぎる社会体制はどうよ。
でもこれらは欠点ではありません。こういう要素は全部、SFジャンルの集合記憶から切り貼りされてて、中には日本のアニメ経由と感じる要素もあります。そうやってSFジャンルの記憶をある意味乱雑にコラージュすることで表現を作り出す。このやり方はディックのSFの方法です。
切り貼りされた要素の隙間から、やがて見えてくるものがあります。私達が今生きているのはこんな時代なんだという一つのヴィジョンです。
ディックはSFを再構成することで、小説の同時代性とジャンルSFの両方を異化しました。ニール・ブロムカンプ監督が映画においてどこまでやるのか、今後の作品が楽しみです。