ジーン・ウルフ『デス博士その他の物語』

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

本の中の言葉は声を喚起する。声は映像を喚起するけど、映像は言葉ではない。本書に収められた作品の中で言葉が生み出す声と映像は時に競合し時に協同して物語を紡ぎ出す。表題作の『デス博士の島その他の物語』では少年の読む物語の登場人物が実際に現れ、少年に語りかけてくる。『アイランド博士の死』ではスノーボールのような自律する小世界に潜む知性が、その中に閉じ込められた少年に風景を通じて語りかけてくる。『死の島の博士』の主人公は文字どおり喋る本、読者に語りかけてくる本の発明者だ。『アメリカの七夜』では失踪した青年の日記が語りかけてくる。青年は見てはならなかったものを見たことによって破滅したのだ。『眼閃の奇跡』では主人公の少年は盲目だ。様々な大人の声が少年に語りかける。盲目の少年が映像を見る時、世界の法則は歪む。
どの作品も人が物語を"読む"という経験を鮮やかに再認識させる仕掛けになっている。読むことによって"読むことの意味"が開示されていくというのは不思議な経験です。特にSFのようなジャンルでは希有だと思われ…いやジーン・ウルフすげぇや。